第二十三帖『初音』
玉鬘〜衣配りの段とともに
六条院の春 明石御方の存在感
としつきをまつにひかれて経る人に今日うぐひすの初音きかせよ
白い衣の上に
くっきりと髪がかかって
少しさらさらするぐらいに薄らいでいるのも
いっそう色っぽさが添うてなつかしおすさかい・・・・・
第二十三帖 『初音』「衣配り」あらすじ
[衣配り]
年の暮れ、源氏は正月の晴れ着を女君達に贈るための衣選びに忙しい。源氏の選ぶ衣から、会ったこともない女君達を想像する紫の上の心中は落ち着かない。ことに明石の御方に対して妬ましい思いでいる。
日時/12月8日 (土) 3時 (開場2時半)
9日 (日) 3時 (開場2時半)
場所/明大前 キッド・アイラック・アート・ホール
東京都世田谷区松原2-43-11
入場料/前売り:2,000円 (当日:2,500円)
チケットのご予約/キッドアイラックホール
TEL. 03−3322−5564 FAX. 03−3322−5676
*12月7日までは、下記フォームでも予約を承ります。
必要事項にご記入のうえご送信下さい
第二十二帖 『玉鬘』
夕顔の遺児 再会の奇跡
恋ひわたる身はそれなれど玉かづら いかなる筋をたづね来つらむ
このような子がいると、なんとか人に知らして、
兵部卿の宮などがこの邸の中を気にしといやすお気持ちを
さわがしてあげとおす。
第二十二帖 『玉鬘』あらすじ
源氏は若かりし日の恋人で急死した夕顔を、時を経ても忘れることが出来ない。現在は紫の上に仕える夕顔のかつての女房右近は、今もし夕顔が存命なら明石の御方くらいの待遇はお受けになっているはずと嘆いている。
夕顔が当時の頭中将(現内大臣)との間に儲けた忘れ形見の姫(玉鬘)は、母亡き後、乳母の夫の太宰の少弐任官に従って移り住んだ筑紫の地で美しく成長した。少弐はこの地で没し、姫を都に戻す機を得られずに焦りがつのる中、姫の美貌を聞きつけて肥後の豪族大夫監が強引に求婚してきた。乳母は息子の協力で辛くも難を逃れ、闇に紛れて海路都へと向かった。
内大臣のもとに名乗りを上げることも出来ないまま秋を迎え、玉鬘一行は長谷寺に姫の開運を祈った。その宿で、昔夕顔に仕えた右近に巡り会う。 右近の報告を聞いた源氏は、姫を六条院に招き寄せ、花散里に後見を委ねる。美しく成人した玉鬘に夕顔の俤をかさね、源氏はこの数奇な縁に心震わせる。
(衣配りの段は次回「初音」の巻に添えて語ります)
日時/10月20日 (土) 3時 (開場2時半)
21日 (日) 3時 (開場2時半)
場所/明大前 キッド・アイラック・アート・ホール
東京都世田谷区松原2-43-11
入場料/前売り:2,000円 (当日:2,500円)
チケットのご予約/キッドアイラックホール
TEL. 03−3322−5564 FAX. 03−3322−5676
*10月18日までは、下記フォームでも予約を承ります。
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第二十一帖 『乙女』
夕霧の恋 六条院完成
日かげにもしるかりけめやをとめごが あまの羽袖にかけし心は
大な童が、濃い紫の袙(あこめ)に紫苑色の織物を重ね、
赤い朽葉色のうすものの汗衫(かざみ)を着て、
たいそう物なれた様子で廊、渡殿の反橋を渡ってくるのどす。
第二十一帖 『乙女』あらすじ
源氏は未だ朝顔の前斎院を思い切れずにいる。
日時/11日 (土) 3時 (開場2時半)
12日 (日) 3時 (開場2時半)
場所/明大前 キッド・アイラック・アート・ホール
東京都世田谷区松原2-43-11
入場料/前売り:2,000円 (当日:2,500円)
チケットのご予約/キッドアイラックホール
TEL. 03−3322−5564 FAX. 03−3322−5676
第二十帖 『朝顔』
源氏の心惑い 紫上の苦しみ
秋はてて霧のまがきにむすぼほれ あるかなきかにうつる朝顔
枯れた花々のなかに 朝顔があっちこっちに這いまつわって
あるかなきかに花をつけ
色艶もいっそう衰えてしもうたのを手折らせて お贈りやす。
第二十帖 『朝顔』 あらすじ
源氏三十二歳 従姉妹である朝顔の姫君が、亡くなった父式部卿宮の喪に服するため斎院を退き桃園の宮に移り住んだ。源氏は前斎院となった朝顔を訪ね、かねてよりの恋情を訴えるが、朝顔はよそよそしく、後に朝顔の花によそえて贈った歌にもつれない態度である。
紫の上はその噂を耳にし、桃園の宮に暮らす朝顔の叔母 五の宮の見舞いにかこつけて出かけてゆく源氏の艶やかな姿に心底不安になる。
源氏は桃園の宮で尼となった源典侍に出会った後、朝顔に求婚するが、朝顔は拒み通し勤行に専念する。
源氏は紫の上に朝顔とのことを弁解し、夕暮れ時雪の積もった庭に童女達を下ろし雪まろばしに興ずる。その夜源氏は紫の上に、かつての女君たちのことを語ったが、源氏の夢に藤壺が現れ、罪が知れたと言って恨んだので、その鎮魂を祈るのだった。
藤壺という心の軸を失って 源氏の心は朝顔の姫宮に向けられます。
朝顔は光に靡かなかった女君として源氏物語の中に凛と咲く花です。
この拒絶は源氏の求愛に対して苦しみ抜いた空蝉のそれとは違い、
何か超然としたものを感じさせ、
紫式部そのひとの心をかさねてみるのも興味深いこととおもいます。
日時/29日 (金) 6時半(開場6時)
30日 (土) 3時 (開場2時半)
場所/明大前 キッド・アイラック・アート・ホール
東京都世田谷区松原2-43-11
入場料/前売り:2,000円 (当日:2,500円)
チケットのご予約/キッドアイラックホール
TEL. 03−3322−5564 FAX. 03−3322−5676
*6月28日までは、下記フォームでも予約を承ります。
必要事項にご記入のうえご送信下さい
第十九帖 『薄雲』
明石御方 娘との別れ 藤壺の死
入り日さす 峰にたなびく薄雲は もの思う袖に 色やまがえる
申しあげといやすうちに
灯火の消え入るように 亡うなっておしまいやしたので
言いようものうて
悲しうて お嘆きやすのでござります。
第十九帖 『薄雲』 あらすじ
光源氏三十一歳の冬、京 大堰の邸に住まう明石の御方は身の程を思い心細い日々を送る。
源氏から幼い姫君を手放すことを勧められ苦悩した末、母尼君の助言もあり、姫君を源氏に託すことにする。師走の雪降る日、涙ながらに姫を送り出す。源氏は二条院 紫の上のもとに姫君を引き取り養女とし、袴着の儀を執り行った。
新春、大堰を訪ねた源氏は御方の心様に感心する。太政大臣が逝去し、天変地異が頻りに起こる中、藤壺が帝に思いを残し崩御した。源氏は悲嘆にくれる。冷 泉帝は、藤壺の宮家に古くから仕える夜居の僧から、源氏が実の父親であるという出生の秘密を聞き、煩悶の末源氏に譲位を仄めかすが、源氏はこれを固辞し た。
秋、里下がりをした梅壺の女御の美しさに魅せられた源氏は恋慕を訴えるが返答はない。春秋の優劣について話すと女御は秋を好むという。
源氏はまた、仏事にこと寄せ大堰に明石の御方を訪ねるのだった。
身分の程を知る明石の御方は、娘の将来のために身を切るような決断をします。
この巻では母と子の別れ、そして源氏が心中慕ってやまない藤壺入道の宮との別れが描かれます。
またそれによって時の帝が自身の出生の秘密を知るという、苦悩に満ちた巻です。
第十八帖 『松風』
明石との再会 姫と共に京へ
変らじと契りしことを頼みにて 松のひびきに音をそへしかな
あの夜のことが、自然と思い出されるその折をすぐさんと、
形見の琴の御琴をさし出すのどした。
そこはかとのう、物がしみじみ思われますので、
ようお泳えになれえで、掻きならしやす。
第十八帖 松風 あらすじ
源氏は二条東の院を造営し、西の対に花散里を、 東の対には明石の君を住まわせようと計画し、上京を促すが、明石の君は我が身の程を思い躊躇している。父入道は京の大堰の邸を修築し、娘を住まわせることにする。源氏は惟光を遣わし邸の整備をさせる。父入道は明石に残り、明石の君は姫君、母君と共に大堰に向かう。
紫の上を憚る源氏は、折から造営中の嵯峨野の御堂や桂の院への用にかこつけてようやく大堰を訪れ、三年ぶりに明石の君と再会、初めて会う姫は三歳になっ ており大変可愛らしい。源氏は形見の琴(きん)を弾き、明石の君と歌を唱和する。
二条の院に戻った源氏は、紫の上に事情を打ち明け、明石の姫を養女として 引き取ることを相談、子供好きの紫の上は賛同するが、明石の君への説得は難しいことだと その処遇を考える。
「この琴の音がかわらぬうちにまた」と琴を残し、明石を後にして三年。
ひびきあう琴の糸をたぐりよせ 二人は再会しますが
明石の御方はなおも自身の身の拙さを感じています。
占いでは国母となると云われている三歳の姫には大きな後ろ盾が必要です。
紫の上は姫を育てることを喜びますが
それは明石の御方から一人娘を取り上げることを意味するのでした。
第十七帖 『絵合』
冷泉帝を巡る争いの華やぎ
憂き目みし そのときその折よりも今日はまた 過ぎにしかたに かへる涙か
まして 美しい人が
御嗜み深うのびのびと筆をもてあそび
優雅にものに寄りかかって
ちょっと筆をおいて考えたりしといやす御様子の可憐さが
お心に染みついて・・・
第十七帖 絵合 あらすじ
六条御息所の遺女 前斎宮は、藤壺宮の口添えにより源氏の養女として冷泉帝後宮に入内、梅壺の女御と称された。入内の日には朱雀院からの思いのこもった贈り物を受け取る。梅 壺女御は絵に堪能で、冷泉帝にはすでに権中納言の娘が弘徽殿女御として入内しているが、絵の好きな帝の心は梅壺に傾く。権中納言(以前の頭中将)は負けじ
と絵を制作させては弘徽殿に届け、源氏も紫上と共に絵を選び、双方の競争の熱は高まってゆく。
三月、藤壺の御前で梅壺側、弘徽殿側に分かれての物語絵合せが催された。優劣決しがたく、後日冷泉帝の御前で再度催され、判定はなお難航を極めるが、最 後に出された源氏の手になる須磨での絵日記に人々は涙し、梅壺方の勝利となった。その後源氏と帥の宮は、学問、絵画、書道について語り合った。
冷泉帝のご寵愛を受けるべく、後宮の姫君の御局で美しく優雅に火花が散ります。
実際は女の闘いと言うよりは双方の父君である源氏(王孫)と権中納言(藤原)の闘いです。
以前から張り合ってきたこのお二人、今風に派手な権中納言に対し、
源氏が最後に出した奥の手に、華やぐ王朝人の心は一瞬にして
須磨のわびしくも美しい海辺に誘われます。
第十五帖「蓬生」 第十六帖「関屋」
二人の女君との再会
藤波のうち過ぎがたく見えつるは まつこそ宿のしるしなりけれ
大きな松の木に藤が咲きかかり
月の光の中にゆれながら吹く風にそうて
さっと匂うてくるのがなつかしう
ほんのりと薫りがただようのどす
第十五帖 蓬生 あらすじ
源氏が須磨、明石に退居していた間に、末摘花の姫は窮乏し、召使いは去り、荒れた邸で孤独の日々を送っていた。受領の北の方になっている叔母は、姫を吾 が娘の侍女として九州に連れて行こうとするが姫は誇りを捨てない。帰京した源氏の訪れもないままに、叔母は頼りの乳母子を連れ去った。
翌年四月、源氏が花散里を訪れる途中、荒れた姫の邸に気づき立ち寄った。源氏を待ち続けた姫の変わらぬ心に感銘を受けた源氏は姫の庇護を誓う。二年の後、源氏は本邸に近い二条東院に姫を引き取った。
行くと来をせきとめがたき涙をや 絶えぬ清水と人はみるらむ(関屋より)
第十六帖 関屋 あらすじ
源氏帰京翌年の九月、空蝉の夫常陸介が任期を終えて共々上京した。逢坂の関を経て京へ入ろうとする折も折、石山寺参詣に向かう源氏と再会し、感無量の思 いで歌を交わし合う。だがその後常陸介が亡くなり、継子河内守に言い寄られた空蝉は、それから逃れるために尼となってしまう。
「末摘花」の巻で個性的な姫として登場した、故常陸宮の姫君。源氏の心を打ったのは姫の変わらぬ心根でした。また「帚木」「空蝉」 の巻で思いを断ち切ってなお忘れることの出来ない源氏の君と再会するも、残酷な宿世によって女であることを捨てなければならなくなった空蝉の悲劇。都に返 り咲いた源氏と再会する二人の女君の物語を、今回は通してお聴き頂きます。
第十四帖「澪標」
都への帰還 運命の御子誕生
夕潮がみちて来て
入江の鶴も声を惜しまずに鳴き
しんみりしたおりでもおすさかい
人目もはばからんと逢うて語りとうさえお思いやす
第十三帖 明石 あらすじ
須磨の嵐は止まず、また京の天候も荒れ、政治も滞るほどだという。源氏の邸は高潮に襲われ、住吉の神に願をたてるが落雷を受け一部が焼けた。その 夜の夢枕に亡き桐壺院が現れ、住吉の神の導きで須磨を去れと告げる。翌朝神のお告げを受けたという明石入道が迎えに来、源氏はその舟で明石へと移った。入 道は源氏を手厚くもてなし、折にふれ娘の存在を口にする。初夏の一夜、源氏は、入道のかねてからの願いであった「娘の婿に」と強く望む気持ちをを打ち明け られ、躊躇するも娘に手紙を送る。
一方京では、朱雀帝が桐壺院を夢に見て以来眼病を患い、弘徽殿大后も病に伏せり、太政大臣は亡くなるという凶事が続き、帝は桐壺院の遺言に従わなかった為と源氏の召還を考える。
秋、源氏は入道の娘と契りを結ぶが、誇り高い明石の君は身分の違いに思い悩む。明けて七月、源氏召還の宣司が下る。折から懐妊中の明石の君と別れを惜しみ帰京した源氏は、権大納言に任ぜられ、故院の冥福を祈り法華八講を催す準備をする。
須磨の嵐を晴らすかのような 入道の出現、源氏は何かに導かれるように明石に迎えられます。都に残した紫を思いつつも、源氏は明石の君と契り、運命の歯車が大きく動き出します。
第十二帖「須磨」
京を離れて・・・
渚に寄せてくる浪が
またかえって行くのをおみやして
「うらやましうも」と請じといやすのは
昔から世に伝わる古ごとではおすけど
耳新しうきかれて
一途に悲しうお供の人も思うのどす
第十二帖 須磨 あらすじ
朧月夜との情事が発覚したことで立場が悪化、後見する東宮に累が及ぶことを恐れた源氏は、自ら都を去り須磨での謹慎を決意する。左大臣家、藤壺をはじめ親しい人々に別れを告げ、紫の上に財産、領地を託した。源氏二十六歳三月のことであった。
海辺での侘び住まいに源氏を憂鬱の日々を送る。五月雨の頃にはやりきれない思いを都との文のやり取りで紛らし、仲秋の月に清涼殿での管弦の遊びを思い出し、夜半目覚めては海鳴りに涙し、昼間のつれづれに辺りの様子を絵にしては詩や歌を書き添えた。
明石に住む入道は源氏の噂を聞き、娘を差し上げたいと願う。年が変わり桜が咲くと紫宸殿の桜を恋しがっていると、三位中将が、右大臣勢力の目も顧みず源氏を訪ねてき、束の間の再会に友情を深める。
三月上巳の日、海辺で祓えを執り行った矢先に嵐が起こり明け方に源氏はぞっとするような夢を見る。
自ら赴いた須磨。世のはかなさと孤独を憂う源氏に応えるのは、ただ波の音だけでした。初めて味わうわびしい日々 源氏が見つめる先には・・・・今回も長い巻ですが、都の花と闇から隔たって、自身を見つめる源氏の姿に美しいものを感じます。
第十帖「賢木」 第十一帖「花散里」
別れ 心痛 情勢悪化・・・
秋の花はみんなすがれて
浅茅が原も枯れはて
かれがれの虫の音に 松風もすごう吹いて
何の曲とも聞き分けられぬほどに
楽の音が たえだえに伝わってまいりますのが
何ともいえず優雅どす
第十帖 賢木 あらすじ
源氏との仲に光を見いだせない六条御息所は伊勢に下る決心をする。その下向も近い秋の日、源氏は嵯峨の野宮を訪ね伊勢下向を思いとどまらせようとするが、御息所の決意は変わらなかった。
十月、桐壺帝は崩御、藤壺は自邸三条の宮へ退出し、弘徽殿女御は新帝の母として大妃になっている。その妹朧月夜は、源氏との仲が知られ入内できず、尚侍として朱雀帝に仕える。
藤壺は東宮の後見として源氏を頼りにしているが、源氏の恋情に思い悩み 出家してしまう。その衝撃は大きく、右大臣一派が権勢を増し、時流に媚びる廷臣 達が皆離れていく中で、源氏は朧月夜との危険な逢瀬にのめりこんでゆく。ついにある朝、朧月夜の閨に居るのを右大臣にみつけられ、弘徽殿女御は怒りに乗じ て源氏失脚の策謀をめぐらす。
第十一帖 花散里 あらすじ
危うい立場の源氏は人の心の儚さを憂い、父帝の御代を懐かしむ。花が散ってゆくような有様に、昔心を通わせた女君を訪ねる若き源氏の「春」終焉の巻。
栄華を誇った源氏の青春に暗雲が立ちこめます。人の世のうつろいに現実を見いだせない源氏の苦悩。孤立してゆく心が向かう先は・・・
今回から二日間の上演です。両日 長い「賢木」の巻、大変短い「花散里」の巻を、続けて語ります。
第九帖 「葵」
狂おしい女の執念さまよいでる
「こないにしてやって来ようとは思いもよらんことどしたのに
物思う人の魂というもんは、ほんまに
あくがれさまようもんどすなぁ」
第九帖 「葵」あらすじ
朱雀帝の御代と改まり源氏は右大将に、世は右大臣が勢力を強める。
源氏の冷たい態度に思い悩む六条御息所は、娘が斎宮に選ばれたのを機に伊勢下向を決意する。葵祭の日、行列に加わるという源氏を一目見ようと姿をやつして 出掛けるが、折から葵の上の一行と車の場所をめぐって争い、無残にも後ろに追いやられてしまう。恥をかかされた御息所は屈辱にうちひしがれる。
御息所の物思いは高じ、魂が身体からさまよい出て出産の葵を苦しめ、物の怪となった姿は源氏の目前にまで現れる。
葵は無事男児を出産したが、邸内が人少なの折、物の怪に命を奪われる。
源氏は葵の死を悲しみ、また凄まじい女の執念に現世まで疎ましく思う。
左大臣家で過ごした喪が明けて二条院に帰ると、紫の上が大人びていよいよ藤壺にかさなり、ある夜新枕を交わす。紫の上は源氏を慕い続けてきた心のやり場がなくふさぎ込んでしまう。
教養、気位、なにもかもが最高の女君六条御息所の押さえに押さえた思いは、時空を越えて恐ろしい力を発揮します。葵の死にうちひしがれる源氏と左大臣の悲しみの陰に、御息所は心の業火を思い知り、ある決心に至ります。
第八帖 「花の宴」
源氏の危険を省みない恋の衝動
たいそう若うて、可愛い声の、
並の身分の人とは思われへんのが
こちらへやってきやはるやおへんか。
ひどう嬉しうて、いきなり袖をお引きやす。
第八帖 「花の宴」あらすじ
二月の二十日余りの頃、紫宸殿で桜の宴が催された。源氏の漢詩、舞が喝采を博すのを藤壺は複雑な思いで見守っている。その夜、酔い心地でそぞろ歩く 源氏は、弘徽殿の細殿で「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさみながらやって来る美しい女の袖を捉える。有明の頃、互いの扇を取り交わし二人は別れた。一夜 契った姫の身元を惟光らに探らせると、どうやら右大臣家の弘徽殿女御の妹であるらしい。
源氏は西の対の紫上の愛らしい成長には満足している。大殿の正妻葵上の態度は冷たいが、父左大臣は源氏をこの上なく賞賛する。三月の下旬、右大臣家の藤の花の宴に招かれた源氏は朧月夜の君と再会するが、姫は近く東宮入内を控える身であった。
朧月夜の君と呼ばれるようになる女君は、あでやかで奔放な姫。心の赴くままに源氏との恋にその身を投じます。この姫との恋が人生を大きく変えてゆこうとは、この時の源氏には想像できないことでした。
短い巻ですので、原文の京都音調語りも併せてお聴き下さい。
第七帖 「紅葉の賀」
若き源氏の君 渾身の舞
とりわけ手をつくしてお舞いやしたお姿は
入綾の時などは
その美しさはぞっと寒気をおぼえるほどどして
この世のもんとも思えしまへん
第七帖 「紅葉の賀」あらすじ
桐壺の帝が朱雀院行幸の催し物を藤壺に見せたいと行った試楽で、光源氏は頭の中将と青海波を見事に舞い、人々の涙を誘う。弘徽殿女御だけは源氏の美しさを呪い、藤壺は罪の意識でその舞を観る。行幸当日、源氏は再び青海波で絶讃を博して正三位に昇進する。
源氏の密通により懐妊した藤壺は源氏を遠ざける。落ち着きのない源氏に、正妻葵上は冷たく接し、源氏は紫上を一層可愛がる。
元旦、左大臣家で源氏は、葵上の態度に自身のありようを省みる。
二月、藤壺は源氏とそっくりな男皇子を出産、帝の喜びように二人は罪を恐れる。源氏は混乱した気持を二条院で紫上を相手にすることで慰める。ある日源氏 は源典侍という好色な老女との逢瀬を頭の中将に見つけられ閉口する。帝は退位して新皇子を東宮に立てようと考え、藤壺を中宮に立て、源氏は宰相(参議)に 昇進。弘徽殿女御は藤壺の立后を深く恨む。
源氏の君のあでやかな舞に、燃える紅葉も色あせるほど。輝かしい行幸にかさねられた恋の闇は、皇子の誕生によって、壮大な物語の運命の大河に漕ぎ出すのです。後半の悪ふざけのような好色老女の段の対比も見逃せません。
第六帖 「末摘花」
個性的な姫君の登場です。
あの人たちが言うていた葎の門とはこないなとこに違いない。
ほんまに、心苦しいほど可愛い人を
ここに据えて、気がかりで恋しいなあ、と思いたいもんや。
道ならぬ思いは
そのことで紛れるかもしれへん
第六帖 「末摘花」あらすじ
源氏は、大輔の命婦から、亡き常陸宮の姫君が琴を唯一の友に寂しく暮らしているという噂を耳にする。朧の月夜、姫をこっそり訪ねる源氏の後をつける頭中 将。二人は姫の弾く琴の音に耳を澄ます。秋、容易になびかない姫とやっと契りを交わした源氏だが、その恥ずかしがるばかりの世間離れした様子に落胆し、足 が遠のいていく。
雪の宵の頃、ようやく姫を訪ねた源氏は、古女房達の寒さに震える零落した暮らし振りと、翌朝雪明かりに見た姫のあまりの醜貌に驚くが、かえって姫に対す る憐憫の情がつのり、後見することを心に決める。年の暮れ、姫から贈られた古びた衣裳に源氏は呆れる。
正月七日の夜常陸宮邸を訪れ、源氏が贈った新しい衣裳のお陰で多少女らしくみえる姫に逢うが、見事な黒髪の姫の顔を彩り咲き匂うのは紅くのびた鼻なのだった。
夕顔の儚い死を忘れられない源氏の君。その死後すぐに出逢う高貴の姫君。この物語は第五帖の若紫、第七帖の紅葉の賀と同時進行しています。頭中将と競い合う源氏の君の若々しい様子も少しばかり滑稽です。
第五帖「若紫」
紫のゆかりの姫君
雀の子を
犬君が逃がしてしもうたの。
伏籠のなかにとじこめといたのに
第五帖「若紫」あらすじ
春、病気の治癒のための加持祈祷に聖を訪ねた北山の地で、源氏は慕ってやまない藤壺の宮に面差しを映す若草のような少女に心を奪われる。宮の姪と知り、もらい受けたいと祖母の尼君に所望するが断られる。
京に戻った源氏は藤壺の宮が病気のために実家に下がっていると聞き、この折にこそと王命婦に手引きさせ、宮との夢のような逢瀬が実現する。結果源氏の子を 身籠もった宮は苦しんだ挙げ句に帝の御子として奏上、帝を喜ばせる。二人は犯した罪の重さを恐れ嘆く。
晩秋に尼君が亡くなり、少女が実父兵部卿の宮に引き取られるときくや源氏は先んじて彼女を強引に二条の院に迎えとり、思い通りの女に育て上げるべく教育 を始める。次第に新しい生活にとけ込んでいく少女に藤壺の宮の面影を見出す源氏は、その成長に期待し胸膨らませる。
源氏の君 紫のゆかりの恋の旅路がいよいよ始まります。
藤壺ゆかりの若紫との出逢い、藤壺密通という禁断の恋、 世を欺いて生きる運命を愛する人と共に背負い、形代としての若紫を愛(め)で育てる源氏。源氏物語の根幹をなす紫のかさねが 光と闇となって京の季節に織られてゆきます。
一部二部構成の公演となります。
第四帖「夕顔」
月に照らしだされる白い花
白い袷の上に
薄紫のやわらかな上着をかさねて
華やかではおへん姿はひどう可愛らしゅう
なよなよした感じで
どこというてすぐれたとこもおへんけど
第四帖「夕顔」あらすじ
十七歳の光の君は、夕顔の花咲く粗末な家に住まうたおやかな女と出逢います。お互いの素性を隠して逢ううちに君は女にのめり込んでいきます。一方、光君の 年上の恋人である六条の御息所は君のお通いがないことに苦しみ、忍びきれない情はついに月をも隠しもののけとなって夕顔の君をとり殺してしまいます。 つ る花のように寄り添う儚い女と、物思いの高貴の女。若い源氏の君が体験する月夜の物語です。
帚木、空蝉に続く、中の品の女夕顔の君の物語です。思い通りにならなかった
空蝉の君とは異なり、そのあやうい手弱女ぶりは源氏の君を言いようもなく魅了します。
物の怪が闊歩すると信じられた時代、人の思いは身体を離れて夜を彷徨います。
恋しい人のおとないを待ち続ける女のもらす吐息はかたちをとって顕れ、
儚く萎む花のような女は源氏の君の胸に忘れ得ぬ痛みを残して消えてゆきます。
夏の物語りながら、キッドアイラックアートホールのタイムカプセルは時を越えて
夕顔の花咲く女の住処に皆様をいざなうことでしょう。
一部二部構成の公演となります。
第二帖「帚木」は長い巻により、二回に分けての公演となります。
十月公演はその前半、十二月公演では後半と、続く第三帖『空蝉」です。
雨の夜、殿方が女性の論評をしている間中、梅雨空の雨雲のように源氏の君の心を占めるのはいとしい藤壺の女御。あやめも知らぬ恋が匂い立ちます。(雨夜の品定)
そして手の届くやと近づいた女人はするりと君から逃げ
妖しく薫る衣だけを残します。(空蝉)
第一帖「桐壺」
『どの天子さんの御代のことでござりましたやろか』
帝と桐壺更衣の間に生まれた主人公・光源氏の誕生から元服、葵上との婚礼。そして桐壺更衣を失った帝が嘆きの末に後の后として迎えた藤壺の女御への源氏の君の密やかなる恋心が描かれます。